2010-01-11
業界インタビュー
「中国人に売る時代」の日系企業の課題と商機
中国の巨大な消費潜在力に世界中の注目が集まる中、日系企業の内販も本格化してきた。様々な課題を抱えながらも日系企業は今年、「安心・安全・健康・エコ」の消費トレンドを掴み、飛躍を果たせるのか? 中国市場戦略研究所代表で、『中国人に売る時代!―巨大市場開拓の成功法則―』の著者、徐向東氏に、中国市場の現状や内販に挑む日系企業の課題や商機を聞いた。
――09 年11 月、『中国人に売る時代! ―巨大市場開拓の成功法則―』を上梓しました。
「本書は06 年に出版した『中国で「売れる会社」は世界で売れる! ――日本企業はなぜ中国で勝てないのか』(徳間書店)の続編です。中国ビジネスでいま起きている象徴的な事象や企業の成功事例を見ながら、中国市場開拓における日系企業が勝ち残るための戦略のヒントを示しました」
――徐さんは同書で「日系企業は中国で成功を勝ち取らないと次の時代に生き残れない覚悟で市場開拓に臨むべき」と書いています。
「少子高齢化や人口減少で、今後日本国内市場の成長が期待できない日本の企業の最重要課題は、中国やインドなどアジアの新興国市場の需要をどのように次の成長に組み入れるかではないでしょうか。それには、従来の過剰品質体質を克服し、低価格商品が大量に消費される中国でも勝負
できる体質にならなければならない。日系企業はこれまで以上に真剣に中国市場に挑んでいく覚悟が求められています」
―― 近年、中国で内販に乗り出す日系企業の動きが加速、特に金融危機後にそれが顕著になりました。しかし、中国ビジネスは容易なことではありません。徐さんは、中国で成功するには時には「冒険」も避けられないとおっしゃっています。
「今回の世界同時不況で、日本の多くの企業が米国一辺倒のリスクを実感しました。こうした中、いまこそ日系企業が本気で中国市場に参入するチャンスではないかと見ています。日系企業が中国でなかなか善戦できない理由のひとつに、企業の経営姿勢があります。日本の企業のトップの多くが創業者世代ではなくなり、組織防衛に走りやすい体質になってはいないか。対照的に、中国の地場企業の経営者は、組織人ではなく、創業者としてビジネスをしています。そのため、経営判断が早く、リスクを背負っての攻めの経営ができます。こうした環境では、時には『冒険』もできる企業が有望だと思います」
――中国の巨大な消費潜在力に世界中の注目が集まっています。
「78 年に改革・開放政策が始まってから中国はこの30 年、年平均9.8%の成長を維持してきました。結果、中国の都市化率はすでに4割強です。2020 年には55%になるといわれ、7 億から7.5 億人の規模に達します。中国の消費パワーはいずれグローバル経済を大きく変えていくポテンシャルを感じさせます」
――09 年、中国は世界最大規模の財政出動でいち早く不況から抜け出しました。
「時宜を得た内需刺激策が奏功しました。自動車市場は、1.6?以下の小型車購入税の税率引き下げ政策などで、一気に世界一位に駆け上がりました。家電を農村に普及させる『家電下郷』では、地場の家電メーカーを中心に販売を大きく伸ばしています。
さらに、中国政府は中長期的な成長を促すため、2010 年に農村を含めた全国をカバーする医療や、社会保障制度の枠組み案を公布しました。高貯蓄率が内需の足を引っ張る最大の原因と指摘されてきましたが、新制度が医療や社会保障の漠然とした不安が取り除かれ、消費拡大に繋がることが期待されています」
――これまでの沿岸部に代わり、内陸部が高成長の牽引役を果たしています。
「09 年上半期、2 ケタ成長を遂げたのは内陸部の都市です。一方、上海や浙江省、広東省などの沿岸地域は、輸出不振で成長率低下が著しいです。内陸部は中国の新しい成長エンジンになっています。外資系企業でも、すでに一部が内陸部の富裕層取り込みに成功しています。自動車では、日産が全国の専売店の半分を内陸部に設け、販売が好調です。これから富裕層をターゲットにしたビジネスに参入する企業にとっては、北京や上海だけでなく、内陸部が有望な選択肢になります」
――今後の中国における日系企業の商機をどうお考えですか。
「中国の消費トレンドは、これまでの『行け行けドンドン』から『安心・安全・健康・エコ』に移行しつつあり、安心・安全で絶大な信頼が寄せられる日系企業にビジネスチャンスが巡ってきています。日系企業にとって2010 年が、こうした潮流を掴み、成功を収める年になることを期待しています」