「2月6日最新リポート」新型コロナウイルス騒動と中国人の動き

2020-02-06

■「2月6日最新リポート」新型コロナウイルス騒動と中国人の動き 

先週末に、大連の空港から東京に戻ってきた。1週間前に来た時とは打って変わって、大連の空港は物々しい警戒態勢になった。出国エリアに入る前には、健康申告表の提出を要求され、体温も測られた。最近14日間の湖北省訪問、風邪や熱の有無などの申告に時間がかかった。中に入ると、ANAもJALも、搭乗手続きのカウンターではほとんど客が並んでいなかった。スタッフに聞くと、ここ数日は、出国ラッシュが続いていた。予約済の春節休暇後の航空券を放棄し、高額な料金を払い早い便に切り替えて日本に出向いた人は少なくなかった。満席だと言われたが、機内に入ると半分近くが空席だった。元々日本滞在のビザを持っている人、マルチビザを持っている人、すでに日本旅行のビザを取得した人、、、こういった人たちは、春節休暇を短縮して一足早く日本に向かったのだ。 

日本のテレビでは訪日団体客のキャンセルを報道されているが、すでにビザをもっている個人客や、留学生、配偶者、ソーシャルバイヤーなどはむしろ、日本の入国規制が厳しくなることを恐れて、急いで日本に向かった。キャンセルが増える話がある一方、日本への入国が増えた話もある。こういうところからいも、中国人の行動力の速さを伺える。 

◆行動力の速さといえば、マスクを一斉に店頭から買い占めたバイヤーがその典型だ。

マスクを詰め込んだ段ボールが殺到し、日本の郵便局がその処理に手を負えず、中国への発送に遅延が生じている。中国国内のほうでは、税関も職員の帰省や休暇延長によって人手が不足している。春節休暇中でも宅配サービスは動いているが、出稼ぎ労働者が帰省したため、宅配も人手不足に喘ぎながら、救援物質の運送を優先している。 

バイヤーの買い占め行動は速かったが、日本から買い占めたマスクが中国のお客さんの手に届くまでは時間がかかりそうだ。 

◆「ウイルスの拡散を止めるには、人と人を隔離することが最善策」。

こうした専門家のアドバイスを受け入れて中国の主要都市では前代未聞の2週間以上の長期連休が続いている。

 

(2月6日に撮影された大連市内は人影がまったくない) 

1月22~23日あたりに、コロナウイルスの「震源地」・武漢が封鎖されてから、今週末までにはすでに17日間に及んでいる。コロナウイルスの潜伏期間は長くても2週間程度。つまり全国民が自宅に隔離されている間、感染者の身元がほとんど判明し、隔離されるから、感染拡大に歯止めはかけられる。 

◆現時点において、世界中の関心は、「感染がどこまで広がる」「いつに終息する」の2点に集中している。

それについては色々な推測がある。日本の朝の特番をちらっとみたら、「感染者35万人」の数字が大きく出されていて自分の目を疑った。確かに武漢から引き揚げた日本人565人のうち、8人も感染者が見つかった。8人を565人で割って感染率が1.4%と算出するのは簡単だが、それをどの数字に掛け算するかによっては、出てくる感染者数の推測値が大きく違う。 

武漢から引き揚げた日本人は、感染者が最初に集中的に発生していた武漢の「華南海鮮市場」の周辺に住む人が多い。このエリアは、武漢の「漢陽区」という旧市街地、東京といえば、新宿区のような商業エリアだ。漢陽区の区民数は80万人弱。 

武漢市の常住人口は1400万人。そのうち、500万人は街が封鎖される前に外に流れて出ていた。その大半は、武漢周辺の湖北省にいる。大学生や出稼ぎ労働者といった若い人が多い。 

ウイルスの感染が、漢陽区を中心に広がっている段階の1月22日~23日あたりに、武漢市が封鎖され、人の移動は完全に止められたのだ。今は市内に残っているのは900万人。今回は武漢を中心としながら、その周辺の湖北省まで広がっている「局部的な感染拡大」ということには変わりがない。 

他地域に感染者の情報はすべて把握されており、感染ルートも逐一、公表されている。感染ルートをみると、他地域の感染者の絶対多数は武漢滞在歴がある。残りは一緒に住む家族なのだ。大変残念だが、一部、治療にあたる医者や看護婦が感染されている。 

感染者と一緒に住む家族は、たとえば発症していなくても、「濃厚接触者」としてほとんど隔離され、医学観察を受けている。 

◆武漢市では突貫工事で1000~2000人ほど収容できる

巨大病院は一週間に2つが建てられ、市内のスタジアムやコンベンション・センターなども巨大病院に変えられ、数万人を収容できる体制が整えた。 

今は、武漢そして湖北省は、感染者を重症と軽症に分けて全部収容され治療を受けている。感染が疑われる「疑似病例」の人たち、そして一緒に暮らす家族などの「濃厚接触者」も、全部、隔離され医療観察を受けることになっている。 

感染の有無を判断する検査キットの生産が加速化したため、感染を判明された人は急速に増え、ついに2万人を超えたが、もともとインフルエンザが多発する季節なので、感染が疑われる「疑似病例」と言われる人たちから、感染者として確定する比率は10~15%くらいにとどまっている。 

結論を申し上げると、武漢そして湖北省以外の、中国の他の地域では、感染者が今後、爆発的に増えることはないと思う。 

これは、17年前のSARSとはだいぶ違う。SARSの時は、南の広州で感染拡大の後、北の北京に蔓延してついに中国全土まで拡大する惨事となった。 

また今回のウイルスの特徴は、一言といえば、感染力はかなり高いが、致死率はそれほど高くない。治った人も増えている。これもSARSとは大きく違う。現に、全米で流行っているインフルエンザのほうは、感染者や死者の数は遥かに多いのだ。 

頻繁に手を洗うなど、ウイルスが自分の目や口、鼻から入ってこないよう、十分に警戒する必要はあるものの、あまりにも恐怖心に取り憑かれて、冷静な判断を失うのも避けるべきだ。 

◆マーケティングの視点から考えると、まず一つ容易に想像できるのは、これからいろいろな生活用品の購入が増えてくることだ。

日本でも、マスクや消毒用アルコールなどは、ここ1週間ほどには、昨年一年間分を売り上げたが、春が訪れ気温が上がれば、これらの商品の「爆買い」が徐々に減っていく。 

ただし、中国国内にいる人々は、1月の後半からいきなり「籠城生活」を強いられて、すでに2週間以上も経っている。当然ながら、ほとんどの生活用品が足りなくなってきている。 

来週あたりから、中国ではまず「宅配サービス」が、他より一足早く、正常の稼働に戻り、その後、ネットショッピングが増えるだろう。 

上海などの大都市では、化粧品から日常生活用品まで日本製品を愛用する人は少なくない。在日の大口バイヤーのなかに、嗅覚の鋭い人は、1月からすでに日本の店頭から中国人に人気な商品を仕入れ始めている。 

◆今回、日本の対応は、中国で大変な好評だった。

今は空港など公の場をできるだけ避けたいから、桜シーズンの訪日をキャンセルする人もいるが、事態の沈静化が早ければ、桜シーズンの来日が増える可能性もある。 

仮に桜シーズンになってもまだ日本旅行が完全回復でなければ、ずっと抑圧されたニーズが必ずどこかで一気に放出される。5~6月になった時には、日本旅行やインバンド売上げが「爆発的に」増える可能性はある。その時になると、これまでに中国人に人気な化粧品やサプリメント以外に、消毒や殺菌などの機能性商品も含めて、ヘルスケア商品も大量に買われていくだろう。 

◆中国人は今、「籠城生活」をどのように送っているのだろうか?

弊社上海社員にヒヤリングしてみると、最初は、春節休暇の延長を聞くと喜んでいたが、実は1週間をすぎたところ、次第に退屈さに耐えられなくなった。男は時間をつぶすため、オンラインゲームに明け暮れているが、オンラインゲーム最大手「テンセント」の売上げがトントン拍子で伸びる一方だ。その恩恵を受けている日本企業もある。家の中で体を動かす日本のゲーム機「Switch」の映像が人気を呼び、中国からの購入が増えている。 

ママ社員は、「今までこんなに長く子供と一緒に遊ぶ時間がなかった」という。若い女性は、SNSにアップされているグルメ、料理、クッキーなどを見て楽しんでいる。弊社のクライアントの中にも、情報に敏感な日本人の女性は、「中国のSNSでは、最近おいしいクッキーばかりアップされているね!」と気づいて教えてくれた。 

結局、「ネットの美味しい画像や映像をみながら自分も作って食べる」という毎日。みるみるうちに太ってくるので、これからはダイエットが大変なのだ。 

昨年、オンラインの中継通販が爆発的に成長した。「ジャパネット高田」の若きハンサムバージョンのネット中継の人気者が、有名芸能人さながらの国民的アイドルになっている。昨年末から、こうしたネット中継の人気者は、「一人で気軽にできる運動グッズ」を勧めはじめている。これからはしばらくの間、皆が通うジムやヨガ教室は敬遠されそうだ。「一人で気軽にできる運動」が若者の中で、新しいトレンドになるかもしれない。 

「自宅でできる運動グッズ」のネット通販が増え、「一人で運動できるジム・ボックス」が現れてくるだろう。上海では「一人カラオケ・ボックス」がここ1、2年に流行っていたが、2020年の流行は「一人のスポーツジム・ボックス」になるのかな?

オフィスビルには個室がいくつか設けられ、中には運動機材や、音楽・映像を楽しむ設備を入れる。ドアにQRコードがあって、スマホでスキャンすれば課金され利用を始める。利用後は自動的に消毒・殺菌され、次の利用者が安心して使える。 

日本企業も、こういうライフスタイルの変化を把握しながら、中国の消費者にもっと受け入れやすい商品を提案しょう。 

◆災いが転じて福になることもある。

2003年のSARSの後、中国ではネット通販が一気に成長し、次第に世界最先端の通販市場となった。その後、PM2.5が深刻化するなか、空気清浄機は、中国人の家庭に一気に浸透した。今回のコロナウイルス騒動は、また中国人の生活や、中国の経済にどんな大きな変化をもたらすだろう。 

消費生活もビジネス活動もますますオンラインにシフトするだろう。ウイルスや菌を怖がり、人との対面を避けたい。宅配ボックスはもっと普及し、届いたものをボックスから取り出せばいい。通販大手はこのような「オンライン・スーパー」の普及に余念がない、子供の教育にものすごい熱心だが、外の塾を通うとウイルスが心配。今年は、子供が在宅でも通える「オンライン教室」が増え、塾の形が変わっていくだろう。化粧品の販売もネット通販にさらにシフトし、「オンラインのビューティーアドバイザー」が出てきても不思議がない。

◆弊社の上海オフィスは、日本の化粧品の越境ECも手伝っている。

協力先の中国のネット通販企業は、コールセンターも運営しており、莫大な数の社員を抱えている。ところで、社員の出勤に関して、上海市が決めた春節休暇の延長期間よりも先延ばししている。 

実は、春節の間でも業務が止まっていなかった。社員が在宅勤務できる「クラウド・オフィス」をいち早く導入したからだ。アリババ社が開発したネット上の業務管理システムを使えば、会社にいるよりも社員の仕事をきちんと把握できる。

クラウドを活用しているので、映像を含めた大量のデータ交換や社内会議も自由自在にできる。

中国政府は、コロナウイルスによる経済活動の停滞を心配しているため、ネットショッピングやクラウド・オフィスを後押ししている。 

◆今回の騒動が、中国人の生活にもう一つの変化ももたらすだろう。

それは「家庭内の蓄え」なのだ。日本では、2013年の関東大地震の後、いざという時を備えて、家庭内には、水やパック御飯、マスクやタオルをある程度、蓄えており、緊急時の医療セット、消火器、懐中電灯なども常時、備えている。

日本人は地震や台風などの自然災害による都市機能の停滞を何度も経験したから、徐々にこうした習慣を身につけた。 

上海のような大都市でも同じ習慣がこれから徐々に定着するだろう。実は、今回、外出禁止令が敷かれた後、自宅にこうした蓄えのある人は非常に便利だった。ネットでその話が広がっていた。 

◆中国は世界最大の高速鉄道をもつ国だ。人口の流動はますます激しくなる。

自然災害や疫病は人類の共通の敵。それに勝つにはお互いの助け合いが必要だ。 

中国最大のSNS「微博」の中には、ある武漢の若者がアップした映像が話題になっている。封鎖した武漢の日々を記録した映像だ。6日間の記録をアップされているが、皆さんもよければYouTubeで「武漢封城日記」を検索してみて頂きたい。

その若者は、最初、茫然自失だったが、あるチャットグループに出会い、人が変わるようになった。公共交通が止まって移動手段を失った医者や看護婦を、マイカーで病院まで乗せてあげる。そのためにはじめた武漢市民のグループチャットだ。こうした武漢市民による自発的なボランティアのネットワークは、大きな役割を果たしている。 

彼らは、スマホのオンラインチャットを活用し、毎日、マイカーで医者や看護婦を病院に送り、救助物質を各病院に運び、暖かい御飯と料理を作り、お弁当を病院に宅配するなど、さまざまな活動で、現地の救助活動を支えている。感染が起きた初期のころ、市内の病院は準備不足に喘ぎ、医者や看護婦の苦労は筆舌に尽くしがたい。こうした市民ボランティアは大きな助けになっていた。今、4~5万人に数える武漢市民がボランティア活動に参加している。市内の感染者をはるかに超える人数だ。 

事態の早い収束を祈りながら、大きな希望をもって、新しい生活やチャンスの到来を期待しよう。(以上)

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