2013-09-05
弊社の最近の中国現地調査では、ローカルブランドの成長が気になっています。たとえば化粧品の「自然堂」、「相宜本草」と「佰草集」。 日本ではまだあまりなじみがないですが、中国では三大民族系化粧品ブランドとして人気が拡大しています。中でも、「自然堂」の成長が目覚ましい。
2012年の中国での売り上げはすでに640億円になっており、ローカル化粧品分野では売上第1位と立派な業績を生み出しています。 弊社が今年(2013年)2~3月に日経産業地域研究所とともに実施した「中国6都市での各国製品イメージ調査」(注)では、「自然堂」は「化粧品・日用品」分野では、資生堂にかなり接近した高得点を得られていることが分かりました。たとえば、「イメージ・見た目」は、「良い」とした回答の割合は79.1%で、資生堂の81.7%とほぼ同率です。韓国系化粧品のラネージュとファンケルを上回る結果となっています。
「自然堂」は2000年に設立された「伽藍」という中国の民営化粧品企業傘下の最大のブランド。創業者の鄭氏は公務員を辞め、最初はエステサロンを創業しましたが、そこで貯めた資金で化粧品会社を立ち上げました。起業した当初は資金がほとんどなく、高級化粧品が集中している上海や北京のような1級都市の百貨店などではなかなか置いてもらえなかったようです。そこで、「自然堂」は1級都市を避け、競争がそこまで激しくない内陸の2、3級都市で、まず販売をはじめました。中国で絶大な知名度を誇る「資生堂」となんとなく似ているネーミングを活かしながら、化粧品のトレンドである「ナチュラル」をアピールしています。
更にイメージキャラターは、日本での活躍ぶりが中国の内陸の女性にもよく知られている
台湾のビビアン・スーを起用しました。
内陸女性にとって、日本の化粧品は憧れの1つですが、「自然堂」はそんな日系化粧品のイメージ近く、ごく自然に手に取ったと思われます。しかも、化粧水一本が100元ちょっと、手頃な価格で良質な「自然系化粧品」を手に入れることができるというわけです。中小都市では、一つの都市だけでは北京上海のような大都市の人口数に及ばないが、しかし、都市の数が多いため、合わせれば中国人口の大半を占めます。 自然堂はこうした2、3級都市で幅広く商品を販売し、そこで獲得した利益を使ってどんどんと商品やパッケージデザイン等を改良しました。
そして、日本の化粧品に見劣りしない、大都市の百貨店にも似合うブランドに変身し、ついに2008年に北京や上海のような1級都市にも展開を始めるようになったのです。1級都市で販売されてからも、「自然堂」が売上はさらに飛躍的に伸ばしており、特に2010年から2012年の3年間の成長が著しかったです。この3年間の間に、「自然堂」にはどんなことが起きていたのでしょうか?
まず、注目は、これまで10年間も続けてきた代理商による販売から、直接販売店に商品を卸すように変わったことです。代理商からは大きな反発がありましたが、創業者の鄭氏はこの「改革」をやり遂げたのです。実はこれがかなり重要なポイントです。 膨大なコストが削減されたと同時に店舗との直接納品で、現場の情報が社内により届きやすくなりました。また、コスト削減分によって、商品の価格を低く抑えることと、販売店やその店員に還元することができるようになりました。
その結果、販売店や店員のモチベーションも以前より高くなり、積極的に自然堂の商品を消費者に勧めるようになりました。
また、鄭氏は同時に、自然堂のイメージアップにも進めてきました。2010年にはまず上海万博に出展、これを機に商品のパッケージデザインを一新し、少なくとも見た目は日本の化粧品には遜色がないほど垢抜けてみえました。その後、2012年にはロンドンオリンピックの中国飛び込みナショナルチームの指定化粧品の資格を獲得しました。このことは実に効果的でした。なぜなら、金メダル獲得が確実視とされた中国の飛び込みチームは、テレビ中継を含め国民の関心も集めました。自然堂もこれをうまく利用して、ナショナルチームの選手を起用した広告を中国の各メディアに登場させ、一気に知名度を広げたわけです。
中国では、自然堂と似たようなケースは、他にもよくみかけます。たとえばファストフード店の「徳克士(DICOS)」などといったブランドは、まず地方都市で展開し、その成功をもって次第に大都市まで勢力を伸ばしてくる。これはまさに『農村から都市を包囲』戦略です。こうした地場ブランドの成長は今後ますます注意深く見守る必要があるのでしょう。
注:【調査概要】中国市場戦略研究所と日経産業地域研究所が2013,2,22~3,7に北京、上海、広州、武漢、成都、重慶の6都市で20~39歳の月収3000元以上中流層社会人1000人(男女半々)に実施した「各国製品イメージ調査」より。
詳しくは「日経消費インサイト2013年5月号」ご参照。
(中国市場戦略研究所 郭暁艶)