2010-07-28
海外ウェブマーケティングやインバウンド観光支援などを事業とするポータル・ジャパンは先ごろ、第1回インバウンドビジネスフォーラムを開催した。テーマは「巨大市場中国とインバウンドの可能性」。ちょうど7月1日から中国人訪日旅行者の個人観光ビザ緩和が施行されたこともあり、当日は400名を収容する会場が満席。関心の高さがうかがえた。フォーラムの基調講演では、中国市場戦略研究所代表取締役の徐向東(じょ・こうとう)氏が登壇。中国市場へのアプローチを提案した。
徐氏によると、富裕層から中間層に属する人口は約4億人。年1%ずつ増加しており、2020年には全世界の人口の約30%を超えると試算できるという。また、都市人口も毎年1%ずつ増加していて、現在は人口の46%が都市に住んでいる。ネット人口は約4億人で、携帯電話人口はまもなく8億人を突破する見込みだ。これらのデータから、訪日旅行ができるポテンシャルを持った人口は約2億人と、徐氏は想定している。
また、中国人口のボリュームゾーンについては「20歳~45歳以下」と説明。実は中国人訪日旅行は、この範疇にある「20代、30代の女性」が全体の約3割を占める重要なセグメントになっている。徐氏は20歳から45歳以下のこの世代を「都市に住み」「教育水準が高く」「所得は富裕層から中間層に属し」「海外旅行への興味が高く」「インターネット、携帯電話を活用する」と特徴づける。彼らへのアプローチ方法として徐氏は「現在の日本市場は成熟しているが、中国市場は成長期。日本の1970年代当時の考え方を応用して、20歳から45歳以下の活動的な世代にピーアールすべき」と語る。
一例として、日本の観光プロモーションとして放映されている中国でのテレビCMを引きあいに、「中国のテレビCMの放映権はコストが高い。日本市場の認知向上を中国全土13億人に対してする必要はない」と指摘。その上で、重要セグメントである20代、30代女性は、終日インターネットに接続して、仕事中でさえチャットで情報交換をしているとし、ネットを活用してコストを抑え、より効果的な情報発信をするべきだと話す。具体的には、化粧品などショッピングの割引クーポンや日本の百貨店のバーゲン情報の配信など、携帯電話を使ったターゲット層の囲い込みなどがある。
また、徐氏は中国の海外旅行市場が成熟段階に進みつつあることも指摘した。現在、中国人旅行者には「東京、中部、大阪を結ぶ東海道側」の「ゴールデンルート」の旅行が人気だが、「中国本土の富裕・中間層は、すでに既存のツアーでは満足していないが、そのニーズにツアー造成が追いついていない」と分析。富裕・中間層の関心は、ショッピングや定番ルート巡りといった第1段階から、日本のホテルや旅館など洗練されたアコモデーションやサービス、心身の健康やリラックス、癒しといった第2段階へ進んでいるとする。
中国本土の富裕・中間層受け入れ例として、徐氏は香港をあげた。香港を訪れる中国人旅行者は毎年1600万人から2000万人で、その多くがマルチビザを取得して年2、3回香港を訪れるリピーター。彼らの目的はショッピングや上質な食事だ。ショッピングではブランドものや中国本土では手に入らないセンスのよい品物、食事は価格が高くても洗練された料理や上質なサービスを求めている。
しかし徐氏によると、中国の富裕・中間層は、香港から次のデスティネーションへ目が向きはじめている。「文化的に成熟した日本市場のコンテンツは、中国の富裕・中間層をひきつける」という。
こうした客層の獲得に、日本より早く動き出したのが韓国だ。大手調査会社ACニールセンによれば、2008年に中国に投入した観光誘致広告費のトップは韓国で、約2108万ドル。ちなみに日本は約76万ドルだった。2008年には韓国の済州島で、中国人旅行者に30日間のビザなし渡航を認めている。また、中国でも大ヒットした韓流ドラマ「冬のソナタ」をフックに、ロケ地ツアーや有名芸能人を起用したキャンペーンを展開したほか、内陸部都市からの誘客強化として、たとえば武漢での女性向け整形ツアーなどを提供している。
現在の訪日中国人旅行者は約100万人に対して、韓国への中国人旅行者は約135万人。徐氏は「日本は韓国を上回る文化的コンテンツを有しながら、中国人訪問者数は下回っている。日本の対応の遅れは否めない」としたうえで「ITツールの活用」「日本の成熟した文化的コンテンツのピーアール」「富裕・中間層へのさらなる規制緩和」を提言した。
Travel Visionより転載(取材:江藤詩文)
詳しくはhttp://www.travelvision.jp/modules/news1/article.php?storyid=45572
【日時】2010.07.28(水)14:00~16:00
【会場】新宿